旅の記憶 日本編 伊豆沼



  渡り鳥の越冬地として有名な宮城県伊豆沼には二万羽を超えるガンやカモや白鳥などの渡り鳥が集まってくる。この付近は雪が少なく、凍りにくい地域の日本における北限ということで、多くの水鳥が越冬できる条件を備えている。またさまざまな水生植物が湖面を覆い豊かな植物環境下、水鳥などの生物に食料を提供している。
 そこで渡り鳥のための国際的に重要な湿地ということで1985年ラムサール条約の国内で2番目の登録地となり水鳥たちの楽園となっている。

 伊豆沼にこのように鳥りが集まってきたのは、町の人たちの並々ならぬ努力があったからだ。伊豆沼の鳥の保護活動が始まったのは昭和30年代というからもう30年以上にもなる。開発によって住む所を失った野鳥たちがこの沼の周辺に集まってきた。これを何とか守ろうと野鳥の大切さを訴えた活動が始まったという。
 しかし台風などで沼は大きな被害を受けたり、また生活排水の流入により水質の悪化などもあり、鳥の保護活動は順調にはいかなかった。しかし排水の浄化設備の整備、水生植物のマコモの植え付けなどにより鳥たちはまたこの沼に戻ってくるようになった。
 伊豆沼の渡り鳥は主に白鳥、カモ、ガンの三種類だ。白鳥は年々その数が減ってきているようだが、昼間のんびりと静かな湖面を進む姿は優雅である。時には数羽の群れで飛び立ち沼を移動する。飛行機の編隊飛行を見るようなすばらしさだ。カモは餌付けされているために人間を怖がらない。バイクで行っても数百羽の群れで道をふさいでなかなか動かないし、コミカルな動きで見ていて飽きることがない。

 しかしこの沼に集まる人たちが見たいのは白鳥でもカモでもない。それは2万羽を越えるガンの群れが飛ぶ姿である。
 夕方日没が近づくと北側の堤防に人が集まってきて、静かにガンの群が帰ってくるのを待つ。昼間は餌を求めて山にいるガンが、沼の中心で夜を過ごすために帰ってくるのだ。やがて日が沈みあたりが暗くなり始めると、近くの山からガンの群れが沼へ向かって飛んでくる。そして私達の頭上を覆い被さるように飛び去ってゆく。いままで静かだった沼もガンの群れが帰ってくるととたんににぎやかになった。
 夕方に帰ってくる群れよりも、朝飛び立つ群れのほうが感動するだろ。これを見るにはまだ暗いうちに沼に行かなくてはならない。夜明け前の沼は深々と冷え込む。しかし感動を見ようと集まってくる人は以外と多い。沼の中心からガンの鳴き声が聞こえるのでまだ飛び立ってないのがわかる。いつ飛び立つのか?緊張しながらその時を待つ。東の空から日が昇ると、誰が合図をするのか突然ガンが飛び立った。群れはいくつかの黒い塊となり、沼の上を回ったかと思うと寒さと緊張で固まっている私の方へ向かってきた。そしてそのまま飛び去っていった。ほんの数分の出来事。沼はまた昼間の静けさを取り戻す。沼の一日はこれから始まる。
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